期待なんかしなかった。




・・・そう思っていた。






tomorrow will come






風邪をひいたからなのか。
一年前の事を夢に見た。



 『俺はクレアのそばで生きていく。』



彼お得意の無表情な顔で告げられた言葉。
それは、私と別れることを意味していた。


 『そう。ちゃんと、彼女を守りなさいよ。』


他に何が言えただろう。
クレアの体が元通りになった時、とても喜んでいた。
とても大切なものを取り戻せたのだから、当然といえば当然だ。
私だって、大切なものを失ってからでなきゃ気づかなかった。


彼にとって、私という恋人はクレアの埋め合わせだったのかもしれない。


彼がどのくらい幼馴染を大事にしていたかを知っているから・・・
だから、別れを告げられるかもしれないとも思ってた。
期待なんか・・・しなかったはず。




 「熱を出すなんて、久しぶりだわ。」


次第に症状が悪化して、頭が働かなくなってきた。
こうやって、立っているのも辛く感じる。
私、こんな状態で薬なんて飲めるかしら?




前はこんなに弱いヒトじゃなかったのに。




トーマの元で働いていた時は、一人ぼっちが当たり前だった。
誰も私が倒れても、助けようとはしてくれない環境だった。
一人で強く生きていくしかなかった。


仲間ができたおかげかしら。


一人で生きていかなくてもいい。
支えあって、助け合って生きるという事を教えてくれたのかもしれない。
それに、甘えてたのかもしれない。




違う。




私が甘えていたのは、彼が私にくれた居場所だった。


彼の腕の中にいることが、とても幸せだった。
どのような事が起こっても、必ず私を守ってくれる腕が好きだった。
助けが欲しい時に手を差し伸べてくれた、一番居心地の良い場所。



 「馬鹿ね。もう一人で生きていけなくなるなんて。」


一人、わびしくのたれ死ぬのね。


今はもう一人。誰も助けになんか来てくれない。

全身から力が抜けて、体が冷たい床へと倒れる。




・・・・と、思ってた。




 「酷い熱だ。待ってろ、アニ―を呼んでくる。」


私を受け止めてくれたのは、私の一番好きな場所だった。
奇跡かもしれない。
彼は、また私が助けを必要とする時に来てくれた。


私を軽々と抱えて、ベッドに運ぼうとする銀色の髪の青年に声をかける。


 「あんた、なんでここに?」

 「お前からなかなか連絡が来ないから、アニ―に連れてきてもらった。」

 「だけど、ずっとクレアを守るんじゃなかったの?」


頭が朦朧とする中、懸命に聞く。
彼は私に毛布をかけてから、喋り始める。



 「ああ。元はといえば俺のせいで、クレアの将来を台無しにしてしまった。

  だから、俺はあいつを一生守る事で、罪を償おうとしたんだ。

  だが、クレアはそんなの必要ないと言った。

  むしろ、自分の幸せを掴んで欲しい、と。
  
  それで、ちょうどスールズに来たアニ―にお前の居所を聞いて、訊ねてきたんだ。」



涙が流れ出して止まらない。
一年分・・・もしかしたら、一生分の涙を流しているのかもしれない。
だけど、泣いた後は具合が悪いにも関わらず、大分元気になった気がする。


 「ねぇ、1つだけ我侭聞いてくれない?」

 「なんだ?」

 「ずっと・・・私のそばにいて。」


一世一代の告白。
勇気を出して言ってみたけど、微かに幼さが残る顔は怪訝そうだ。
また、昔みたいに、拒まれるの?
『ハーフなんかと結婚は考えられない』て思った?




 「そういう台詞は俺が言わなきゃならないと、言われた。」

 「誰に?」

 「・・・特にティトレイがうるさかったのを覚えている。」


どうやら、仲間全員から言われたようだ。
まぁ、マオ曰く『恋愛に疎いヴェイグちゃん』だったら、アドバイスも必要かもしれない。


私の我侭が拒まれたわけではないと知ると、
自然と口の端がゆるんでくる。
そして、ついに熱で頭が可笑しくなったのか、笑いが止まらない。


 「今は眠っておけ。」


そう言って、私のおでこにキスをしてくれた恋人は部屋を出て行こうとする。



不安そうに見つめていると、彼は扉を閉める前に微笑みかけてくれた。




 「明日までには、言う言葉を用意しておく。」





・・・絶対に明日までには風邪を治さなきゃならないわね。







―あとがき―
すんません。理解不能っぽいところ、多々あるかもしれませぬ。
え?そんなの、いつものことだって?
・・・がんばって、精進します。
<2005.06.11>

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