ヴェイグがクレアのことを大切に思っていることは誰でも知っていて。
今更それを指摘する人は、もういない。
だからその事を思い出さなくて良いと思ったのに。
わざわざアニ―が思い出させる。
捕まえてみせる
「あんた、またそれ読んでるの?」
何度も読んで感動できる小説なのかと不思議に思う。
「だって、やっぱり泣けちゃいます。」
涙を拭いながら答えるアニ―は、私から見ても可愛いと思う。
男としては、『守ってあげたい』気持ちが高まる女の子だ。
・・・私とは違う。
「ヒルダさんは、泣けませんか?」
「少なくとも、それでは泣かないわね。」
また可愛げもない答え方をしてしまう。
こんな女を誰が愛すと言うんだろう。
否。
誰もいないから、私は今も独りなんだ。
「じゃあ、これはどうです?」
言いながらアニ―が取り出したのは、一冊の本。
また恋愛小説だろうか。
「今度はどんな話?」
「お伽話です。」
恋愛小説ではないらしい。
少し読む気がでてきた。
本のタイトルを読みとってみる。
「・・・『人魚姫』?」
「はい。王子様に恋した人魚姫が・・・」
「やっぱ、遠慮しとく。」
アニ―の説明を聞く前に言い切って、その場を離れた。
悲しい恋愛話なんて、読む気にならない。
王子を一途に想って死ぬ、可愛らしい恋愛話。
その純粋さが私は羨ましいと思うのに。
だけど、どうしても私に読ませたいのか、アニ―が追いかけてくる。
彼女を私のために走らせるのは可哀想だと思って、止まったのは良いけど。
ガジュマの体を嫌な顔をせずに受け入れているクレアをみつけた。
そして、彼女に微笑みかけている彼女の幼馴染を。
「クレアさんが来てから、ヴェイグさん笑うようになりましたね。」
私が何時までも彼らを見ているせいか、アニ―は彼の話題をだしてくる。
「そんなこと・・・とっくに知ってるわよ。」
痛いところをつかないでほしい。
どうせ、私では彼を笑わせることは出来ない。
「ヒルダさん?」
「ちょっと、そこら辺をぶらついてるわ。」
ここにいるのは苦痛だから。
アニ―が何か言っていたけど、知らん振りをして森の中へ入った。
「馬鹿ね、私。どうしようもない馬鹿だわ。」
森の中で気持ちを落ち着かせていたおかげで、冷静になれた。
なれたのは良かったんだけど・・・
「まさか、武器を持ってくるのを忘れたなんて。」
落ち込みながら入っていった森の中。
大分奥まで入った気がする。
行きは運良く、バイラスに会わずにすんだけど。
帰りも同じようにいくわけがない。
「困ったわね。雷で怖気がつくわけでもなさそうだし。」
こんな事になるなら、自分の想いを伝えておけばよかった。
5、6匹のバイラスに囲まれながらも後悔の思いでいっぱいになる。
バイラスにやられて、私は死ぬのね。
敵が一斉に襲い掛かるのを見て、思わず目を瞑った。
「ヒルダ」
気のせいか。私が一番想いを告げたい人の声がする。
夢なの?そうだとすれば、姿も見たい。
ゆっくり目を開けると、銀髪と青い瞳が視界に入る。
「ヒルダ。大丈夫か?」
夢ではないらしい。
いや、夢なのかもしれない。
だって『大丈夫』て答えたら、今までの苦痛の顔が変わって、私に微笑みかけたもの。
「うっわ、珍しい〜!ヴェイグが微笑んでるヨ!?」
「すげぇな・・・今日は空から槍でも降ってくるかもしれねーぞ。」
「それとも、この世界が滅びるかも!?」
よくよく見れば、他の仲間も私を囲んでいた。
風景を見回すと、野原にいるようだ。
何が起こったのか分からないので、問いただしてみると、仲間達が1人ずつ説明し始めた。
「ヒルダさんたら、私が武器を持っていくように言ったのに、そのまま行っちゃって。」
「それにヒルダの様子がおかしかったから、ヴェイグが心配して追っていったの。」
「すると、しばらくしてから、ヴェイグは気を失ったお前を運んで帰ってきたんだ。」
「そん時のヴェイグの顔といったら!見ものだったぜ〜。」
「なんせ『ヒルダが!ヒルダが!』ってずっと叫んでたんだからネ。」
ティトレイとマオにからかわれているのが恥ずかしいのか、
ヴェイグはずっと顔を私から背けていた。
「とりあえず、無事なら良い。」
もう少しで聞き取れない程の小さな声で呟かれた言葉に気持ちが舞い上がる。
私は一番ではないかもしれなくても、まだ望みがありそうだ。
いつか、必ず。
勇気を出して、あんたに私の想いを告げてみせる。
人魚姫みたいに、泡になって消えてたまるもんですか。
「ところで、ヒルダさん。この本、読みません?」
アニ―から差し出された『人魚姫』を私はつき返した。
「どうせなら、ハッピーエンディングが良いわ。」
―あとがき―
ヒル→ヴェイ。一応両思いですけどね。
バイラスとの遭遇らへんの文は下手でごめんなさい。
戦闘シーンは難しいから、どうしてもあんな風にしか逃げれませんでした。
<2005.05.26>
ぶらうざバック、ぷり〜ず