スールズの人々は皆、優しい。

ヒルダが本当の姿を明かしても、誰一人嫌な顔をせず受け入れてくれた。

その為、ヴェイグが彼女と結婚すると聞いた時も暖かく歓迎された。







ヒルダ、逃げる








挙式を次の日に迎えているせいか、ヴェイグは落ち着かない様子。
そんな彼の姿をクレアは嬉しそうに見つめた。
彼女の視線に気づいたヴェイグは、不思議に思った。


 「どうした、クレア。」

 「ううん。幸せだなぁと思って。」

 「何がだ。」

 「幸せそうにしてるヴェイグを見れて。」


微笑みながらクレアは、ヒルダの様子を見てくると言って部屋を出て行った。
だが数十秒後、慌てた様子で戻ってきた。


 「早かったな。いなかったのか?」

 「ヴェイグの馬鹿!あなた、何やったの!」


急に怒られても、ヴェイグは理解できない。
しかし、クレアは彼に構わず紙を差し出す。


 「これ!絶対に、ヴェイグ何か言ったんでしょ!」


紙を受け取ったヴェイグの目に入ったのは簡潔な文字。





 『やっぱり無理。 ヒルダ』





これだけなのか?
ヴェイグは書き方にツッコミを入れてしまうが、口にはしない。
恐らく、言ってしまえば目の前にいる幼馴染に打ちのめされるだろうから。


 「なんとしてでも、探さないと!」


動揺しているクレアに無理やり腕を引っ張られ、彼はヒルダを探すこととなった。







 「「「ヒルダに逃げられた?」」」


結婚式に参加するため、仲間は皆集まっている。


 「お、おいどうすんだよ!明日だろ、式は!」

 「これは大変なことになったな。」

 「ヴェイグ、捨てられちゃったんだ〜。か〜わいそ〜。」

 「ヒルダさんと何かあったんですか?」


事情を話せば、それぞれ予想していた通りの反応が返ってくる。


 「ほら、事情を話して。」


クレアに原因を求められるが、ヴェイグは何も言えない。
何が原因かはなんとなく分かるが、それは口にするべきではないと判断したのだ。


 「そんなもん、聞かないでも分かるだろ。」


ティトレイが口を開く。


 「どうせ、気づかないうちに、あいつが傷つくようなこと言ったんだろ。」

 「それは無いですよ。ヴェイグさん、ヒルダさんを大事にしてるんですから。」


クレアでの例を出してきて、アニーは反論した。
彼は過去に何も打ち明けないことで傷つけたことはあったが、喋って傷つけたことはないからだ。


 「でもよぉ、俺には冷たいじゃねーか。」

 「それは、僕達もそうじゃない。」

 「そうですよ。ティトレイさんって、そういう扱いを受けやすいじゃないですか。」


マオとアニーがばっさりとティトレイの意見を捨てると、今度はユージーンが口を開いた。


 「いわゆる、『マリッジブルー』じゃないのか?」


その言葉に疑問をもったのはティトレイのみ。


 「そうだよね、何だかんだいってヒルダも精神が弱いヒトだもんね。」

 「自分が結婚することに抵抗があってもおかしくありませんね。」

 「ヒルダ・・・何の為に友達がいるのか、まだ分かってなかったのかしら。」

 「いや、てかあいつが脆いなんてありえねーだろ。」


皆が同感する中、抗議すれば睨み返された。
ヴェイグに優しく肩に手を置かれ、嬉しさのあまり涙が流れようとすれば。


 「俺はヒルダを探してくるから、ついてこないように言っておいてくれ。」


ただ伝言を頼まれただけだったと、悲しさで涙が流れてきた。








スールズの住民でも寄り付かない、山の中にあるヴェイグだけの秘密の場所へと向かう。
先日、ヒルダにその場所を教えたので、そこにいると感じたのだ。


 「ヒルダ。」


案の定、彼女は木に囲まれて座っていた。
声をかけても振り向かない。
仕方なく隣に腰を下ろすと、ヒルダは謝ってきた。


 「本当にごめんなさい。」

 「別に構わない。元々、形式は苦手だ。」


パーティがあれば、無表情ながらも楽しんでいるヴェイグを知っているヒルダは微笑んだ。


 「うそつき。」

 「嘘じゃない。主役は『嫌い』だ。」


たんに目立つのが嫌なだけなのだろうが、クレアを救う為に旅していた時はかなり目立っていたと思う。
何処へ行っても『クレア、クレア』とうるさかったのだから。


 「『苦手』の間違いじゃないの?」


すっかり笑っているヒルダを見て、ヴェイグは安心した。
問題はさほど深刻ではないようだ。


 「なんだか、悩んでた私が馬鹿みたい。」

 「馬鹿だったんだろう。」

 「酷い言い様ね。本気で結婚なんて止めようかしら。」

 「それも一つの方法だな。」


何の、とヒルダが聞き返そうとすれば、目の前にはヴェイグの笑顔。


 「俺たちがずっと一緒にいることに、『結婚』などは不要だ。」


その言葉が嬉しくて、ヒルダはしっかりとヴェイグに抱きついた。







次の日、結婚式はヴェイグが失敗をしてしまった以外は無事に終わったとさ。





 ―あとがき―
長らくお待たせいたしました、更新です。
え、『これだけ待たせておいて、こんなのかよ!?』ですって?
・・・ごめんなさい。私にギャグは無理だったようです・・・
一番書きやすいのは、ほのぼのですな。
2005.09.29

ブラウザバック、ぷりーず。