町に一晩泊まる事になったから、新しい医学書を読もうと思ったのに・・・
名探偵アニ―の休日
「どうして、買ったばかりの本が汚れてるの?」
つい先程、購入したばかりの本を眺めながらアニ―はぼやきました。
開きっぱなしになっていたページは、茶色の液体によって、文字すら読めません。
悲しみに浸ったアニ―は、色と匂いで、コーヒーだと判断し、
まだ濡れていることから、そう時間が経っていないことが分かったアニ―は、
先程まで同じ部屋にいた5人の顔を浮かべました。
「許せない・・・私の楽しみを奪った犯人を!」
こうして『名探偵』の称号を再び掲げたアニ―は、皆のアリバイを聞きに行きました。
<容疑者1:ティトレイ>
「ティトレイさん。さっき、宿屋で何を飲みました?」
にこやかに微笑みながらも、どす黒いオーラを感じ取ったティトレイは思わず後ずさりします。
「さっきは・・・確か、料理で余った野菜でジュース作ったから、それを飲んだと思います。」
そして、あまりの怖さに思わず敬語なティトレイです。
何故、ここまで怒っているのかが、理解できていません。
「そうですか・・・ありがとうござます。」
アニ―は彼の言葉を鵜呑みにはしませんでした。
むしろ、彼が一番怪しいと感じていました。
しかし、ティトレイはコーヒー、あるいはそれと似た飲み物を飲んでいません。
彼女は仕方なく、他の容疑者を探しました。
<容疑者2:マオ>
「さっき、宿屋で何を飲んだかって?んっとね・・・ティトレイに野菜ジュース飲まされたけど、
あまりに苦かったんで、その後ミルクを飲んだよ。それが、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないの。」
マオでもなかった、とアニ―は心の中で舌打ちをしました。
そもそも、子供なマオにコーヒーのような飲み物を飲めるか、
という時点で疑問が浮かび上がることですが。
ですが、悪戯っ子なティトレイでもマオでもないとなると、一体誰が犯人なのでしょう?
とりあえず、アニ―は、捜査を続けます。
<容疑者3:ヒルダ>
「アンタと一緒にハーブティを飲んだじゃない。ほら、タロットを教えながら。」
ハーブティならば、色は茶ともいえます。
アニ―は更に質問を続けてみました。
「そうでしたね。ちなみに、ヴェイグさんとユージーンが何を飲んだか、覚えてますか?」
「さぁ・・・あの2人が最後に部屋に残ったから、どっちかが飲み物の片付けをしたはずよ。
どっちかに聞いたら、分かるんじゃないかしら。」
そうでした。アニ―は肝心な事を忘れていたのです。
アニ―が医学書を大切にしているのは、旅の仲間ならば誰でも知っている事。
ならば、誰かが飲み物をこぼしたとしたら、皆その人を咎めるはずです。
しかし、先程から聞き込みをしていると、誰も何の反応を示しません。
彼らは、彼女に起こった悲しい出来事を知らなかったのでしょうか?
という事は、彼らは事件が起こる前に部屋から出て行った事になります。
そうすれば、何を飲んだか、という質問の意味が理解できなくて当然です。
「ヴェイグさんとユージーンのどちらかが犯人、ですね。」
確信を得たアニ―は、2人の姿を探し始めました。
<容疑者4:ヴェイグ>
「俺とユージーン、どっちが先に部屋を出たか?」
「えぇ。どちらが飲み物の片付けをしたんですか?」
「・・・片付けは俺がやった。」
ヴェイグはなんだか、落ち着かない様子です。
それをアニ―はすぐに察し、更に問い詰めます。
「何を飲んだんですか?」
「・・・ホットミルク。」
彼は、少し照れた顔で答えました。
「嘘は、ついてませんか?」
「あぁ・・・ピーチパイと一緒に飲むと格別だ。」
よく意味が分からない返答が返ってきましたが、アニ―は可愛いから良しとしました。
ですが、アニ―は困りました。
ヴェイグの話が正しければ、犯人は彼のはずです。
だけど、彼が飲んだのはミルク――白い飲み物です。
「ヴェイグさんが嘘をついてる、なんて事はないし・・・う、ん。」
完全に捜査に行き詰まってしまったアニ―は、
気分転換に宿屋に戻って、本がどれだけ汚くなったか確認する事にしました。
部屋に入ったアニ―は、可笑しな事に気づきました。
本を開いたまま部屋を出て行ったはずなのに、その本が閉じていたのです。
すぐさま本を開き、汚れているはずのページへとめくりました。
すると、どうでしょう?先程まで茶色に染まり、インクが滲んでいたページが綺麗です。
違うページが汚れているのかもしれない、そう思ったアニ―は本をめくってみました。
しかし、どのページも汚れていない、新しい本のままでした。
驚きを隠せず、ただその場に立っている事しか出来ませんでした。
そのうち、冷静さを取り戻したアニ―は、本の隣に1枚の紙切れを見つけました。
そこには、一言綺麗な字で何かが書かれていました。
“すまなかった”
この言葉を使う仲間は、1人しかいません。
怒りに身を震わせながら、アニ―は叫びました。
「ユージーン!直接謝ってください!」
犯人はユージーンでした。
ヴェイグと2人で、五月蝿い元気な2人が居なくなった後の静けさを楽しんでいた頃です。
コーヒーがあまりにも熱く、思わず目を細めた時、コップを落としてしまったのです。
アニ―の大切な医学書を汚し、更に文字が読めなくなったのに気づき、
彼は慌てて本屋に走っていきました。
だから、ヴェイグが仕方なく皆の飲み物の片付けをし、最後に部屋を出たのでした。
こうして、アニ―は名探偵としての力を発揮する前に、事件が解決しました。
そして、アニ―にこっぴどく叱られた上に、1週間口を聞いてもらえなかったユージーン程
可哀想なヒトはいない、とティトレイは語ったとさ。
―あとがき―
TOR作品。「名探偵アニ―」。
シリーズ化、とまではいきませんが、まだやる予定です。
ヴェイグの可愛い部分をまた書きたいのです。もう浮かんでるんで(笑
お話が(内容的に)読みにくいのは、謝ります。
四聖出したい!(大部分はサレ)
<2005.03.22>
ブラウザバック、プリーズ