肝試し
「なんでいきなり肝試しなんかするのよ。」
突然問われて、ヴェイグはしばし悩んだ。
「・・・な「夏だから、とかいう理由は聞きたくないわ。」
「・・・あ「暑いから、とかいう理由も聞きたくない。」
「・・・なん「なんとなく、とかいう理由は論外よ。」
「・・・わ「分からない、じゃ済ませないわよ。」
すべての可能性をつぶされ、再びうなり始める。
少し可哀相に思えたのか、ヒルダは仕方なく肝試しに付き合うことにした。
「あんたって、意外とビビリだったのね。」
自分の背中にくっついて離れないヴェイグに声をかけた。
「怖くはない。だが、いきなり現れると驚くんだ。」
それを怖がりと呼ばないで、なんと呼ぶのか。
大体、その状況でよく今まで敵と戦えたなとヒルダは思った。
「暗闇の森だなんて、慣れてるでしょ。」
「慣れすぎて、突然何かが出てくると反応してしまう。」
「それは・・・『何かが来る』と緊張感を高めてしまってるから?」
「そうかもしれない。」
しかし、何故肝試しで夜中の森なのだろう。
せっかくなのだから、怖くさせるような準備をして欲しかった。
今行っている事に対して、やる気は出ずとも不満はあるヒルダ。
後ろで離れようとしないヴェイグを気にもかけず、さっさと暗闇の中を歩いていった。
しばらくすると、人気のないはずの森からなにやら不気味な声が響き渡った。
さすがにこれは怖かったのか、今度はヒルダがヴェイグの後ろへとまわる。
「行って見るか。」
「い、行くって。さっきまでのあんたと違うじゃない。」
「お前もな。」
「そうね。あんたの言うことは正しい。だから、もう帰りましょう。」
「肝試しには良いじゃないか。」
なおも帰りたいと願うヒルダを無視しつつも、
ヴェイグは彼女の手を引いて声がした方向へと向かった。
不思議なことに、音がした方から同じように2人へと向かってくる音がする。
2人はバイラスかと思い、気配を探る。
だが、相手の気配を全く感じることができない。
この事が更に緊迫感をかもしだす。
なぜなら、2人が訪れた地域では、強いバイラスは出現しない。
気配を消せる敵などいないはずなのだ。
「ま、まさか幽霊だなんて馬鹿らしいこと・・・」
「よ!」
「「!!!」」
何時の間に背後にいたのか。
暗闇の中で声がしたことに驚きはしたが、なにやら馴染みのある声だった。
「ティトレイ。こんなところで、何やっている?」
「お前らこそ、何やってんだよ。どっか出かけてたのか?」
「こっちの質問に答えなさい。」
なにやら機嫌が悪い2人に圧倒され、ティトレイは仕方なく答えた。
「夏だし、肝試しにでも誘いに行こうかと思ったんだ。」
「こんな夜中にか?」
「夜中の方が燃えるだろ?」
「じゃあ、なんで気配を消したのよ。」
「お前らだとは気づかなかったけど、気配を感じたから隠れた。」
とりあえず、オバケでもバイラスでもなく、気が抜けた2人は家へと帰っていった。
「そういえば、ティトレイ。あんた、森の中で声出してたでしょ。」
「一人でしゃべってるのはどうかと思うが。」
「はぁ?何言ってんだ?お前らに声かけるまでしゃべってねーぞ。」
「「・・・・・・・・・・え?」」
肝試しをしたかいは、あったのかもしれない。
―あとがき―
このお題の中で一番困ってたお題です。
ヴェイグもヒルダも「怖がり」じゃないイメージですので。
だけど、今夏だし、これで涼んでもらうことができたら・・・光栄です。
<2005.08.11>
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