ヒラリヒラリと落ちていく紅葉。

それを拒むかのように風は優しく吹く。

他には何の音もない。






紅葉の木の下で






 「静かなもんね。」


ぼそりと呟いたヒルダの声が森の中に響く。


 「だが、お前は好きだろう。この静けさを。」

 「そういうアンタもそうじゃない。」


紅葉の絨毯の上、ヴェイグの大きな体に包まれて。

耳元で聞こえる彼の声に心地よさを感じながらヒルダは喋る。


 「ここに住んでるヒトは、お金にしか欲が無いのに。不思議だわ。」

 「そのおかげで、この町はこんなにも綺麗なんだ。俺たちは感謝だけすればいい。」

 「そうね。何時まで、この風景を楽しめるかも分からないんだもの。」


幸せそうに笑っているヒルダをヴェイグは辛い気持ちになった。

たとえ冗談であっても、『何時まで』という言葉は聞きたくない。

この幸せが何時かは無くなってしまうものだと思いたくないのだ。


 「ずっと見れるに決まってる。この風景はもう、この町を象徴させている。」

 「将来、何が起こるかなんて分からないじゃない。」

 「そんな将来は、俺たちが死んでからの話だ。」

 「私たちが死んでから・・・私たち、一緒に死ねるかしら。」

 「ああ。マオやティトレイが、俺達の仲の良さに嫉妬するぐらい幸せにな。」

 「それまで、あんたが私と一緒にいるのかも怪しいじゃない。」

 「少なくとも、俺の気持ちは一生変わらない。」


未だに消極的な考えに対して、ヴェイグは力強く答えた。
ヒルダは顔を後ろへ向けると、眉間に皺を寄せて怒っている顔を見つめる。


 「まだ何か言うつもりか?」

 「絶対に私を手放さないでよ。」


切なげにヒルダの口からこぼれた言葉に、ヴェイグは微笑んだ。


 「お前こそ、俺の手から離れるな。」


その言葉を聞いて安心したのか、ヒルダは再び身をヴェイグに任せて紅葉が舞い落ちる様子を眺め始めた。








end