夢のある未来


〜ここにも『バカ』はいる〜






 「こんにちは、トラウム君。ウーシュちゃん。」

 「「こんにちは。」」


なにやら玄関で子供らが騒いでると思えば、アニーが来ていた。
滅多に遊びに来ないはずなんだが、何故ここにいるんだ?

俺と同じ疑問をトラウムが聞いていた。


 「今日はどうしたんですか?」

 「ひどいなぁ。2人の定期健診のために来たのに。」

 「ていきけんしんて何、お兄ちゃん?」


 「体が悪くないか調べてもらうことだ。」


説明しながらも、そんな時期だったかと頭の片隅で考える。
ヒルダがいれば確認できるんだが、生憎あいつは仕事で出かけてる。


 「ヴェイグさん。お久しぶりですね。」

 「そうだな。前に会ったのは・・・」

 「もう2年も経ちます。」

 「そんなにか?」

 「だって、定期健診で来る時は、ヴェイグさん出かけてるから。」


完全にすれ違っていたらしい。
自分の子供が世話になっているというのに、挨拶もしてない。
なんだか、申し訳ない気がしてきた。


 「すまない。」

 「謝らなくていいですよ。お仕事でしょう?私もですから。」


すっかり、アニーにも俺の考えていたことが伝わったらしい。
一言で意味を理解してくれた。


・・・それだけ、長い間一緒だったってことか。


 「ウーシュ、『ちくちく』は嫌ぁ。」


泣きそうな顔で俺のズボンを引っ張る娘を抱っこしてやる。
すると、俺の首に小さな腕をまわして、しがみつかれた。


 「大丈夫、『ちくちく』はないから。」

 「そうだよ、ウーシュちゃん。安心して?」


トラウムもアニーも優しく対応するが、俺は全く話についていけない。
『ちくちく』って何なんだ?


 「あ、そうか。父さんは知らないんだっけ?」


なんとなく、鼻で笑われた気がするが・・・気のせいか?
お茶を入れてくる、と居間へ向かったトラウムの代わりに、アニーが答えてくれた。


 「注射のことですよ。この前は風邪ひいてたみたいだったから、使ったんです。」


実の父親であるはずの俺よりも、他人のアニーの方が子供の事を知っているのに少しばかりショックを受ける。
頻繁に家から離れているわけではないはずなのに、何故知らないんだ。





気づけば、いつの間にかアニーとウーシュも玄関からいなくなっていた。
何処へいったのかと思えば、居間から声が聞こえてくる。
どうやら、俺はまた自分の世界へと入っていたようだ。


 「あ、父さん。おかえり。診察、もう終わったよ。」


なんとなく、冷たく突き放された気がするが・・・気のせいか?


 「ウーシュね、ちゃんと『れいきめんしん』したよ!」

 「『ていきけんしん』だよ、ウーシュ。」


半分ほど飲み終えたコップを持ちながらしゃべるウーシュにトラウムは訂正する。
こうやってみると、仲が良い兄妹だ。



・・・将来が少し不安だ。



ティトレイみたいに『姉バカ』ならず『妹バカ』になりそうだ。
それは、できれば避けたい。
あんなにしつこい弟、セレーナさんも苦労しただろう。


 「ところで、このピーチパイはヒルダさんが作ったんですか?」

 「いや、俺が作った。」

 「ヴェイグさんが!?」


俺が作ると、何か問題でもあるのか。
喉にパイを詰らせるほど驚かれると、こっちが驚く。


 「でも、そう言われたらそうかもしれませんね。」

 「何でだ?」

 「このパイを食べると、ポプラおばさんのピーチパイを思い出します。」


当たり前だ。小さい頃から食べてきたおばさんのパイ。
それを直伝してもらったのだから、完璧でないわけがない。
料理はあまり得意とはしないが、ヒルダ同様ピーチパイだけは五つ星を認められた(ティトレイに)。


 「お父さんの作るピーチパイは世界一おいしいんだよ!」


口の周りをパイの生地で汚しながらも言ってくれる娘の台詞が心にしみる。
こんなに暖かい気持ちになれるなんて、俺は本当に幸せ者だと思う。


 「俺、絶対に父さんよりも美味しいピーチパイ作れるようになるから。
  だから、楽しみにしててね、ウーシュ!」


父親に妹をとられたくないせいか、トラウムが声をはりあげる。
しかし、その父親は再び勘違いをする。



 
息子が父親(俺)を超そうとしている=俺のピーチパイを美味しいと思ってくれている









やさしく息子へ笑いかける父親を見て、トラウムは呆れる。
また勘違いしてるな、と理解できているから。



そしてアニーは、そんなヴェイグを『親バカ』と判断を下した。







 ―あとがき―
どうしてもヴェイグ視点で書きたかったのです。
しかし、難しかった・・・またチャレンジしよう。
ちなみに、彼のもう1つの称号『クレアバカ』もこっそり含んでるのですよ。
(本人はもちろん、自覚なぁっし!)
2005.08.26


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