京で龍神を召喚した。

百鬼夜行を止めさせる事ができた。

紫姫たちに「京に残って欲しい」と言われた。

でも、私は自分の世界に帰ることにした。

そうしないと、あの人に迷惑をかけちゃうと思ったから・・・

だけど、どうしてもあの人の事を忘れたくなくて。

こっそり盗ってきたあの人の耳飾を一緒に持って帰ってきた。





1.踏み込んだ道は





元の世界に戻ってきて、数年経った気がする。
だけど、実際には2週間しか経ってない。

高校で楽しい時間を過ごしていないわけでもないのに。
今もこうして新しい友達と楽しく喋っているのに。
なんで、胸の一部がすっきりしないんだろう。
自分には、まだやるべき事が残っているような感覚。


 「花梨?聞いてるの?」


会話中に何時の間にか黙り込んでしまった。
少し怒っている口調の友達を宥めて、話を続けるよう言った。


 「それでね、その時にぶつかったってのが、あの人だったのよ!」
 「あの人・・・てあの人?」
 「嘘ー!それ、災難だったんじゃないの?」


会話に参加しようにも、誰の事を言っているのか分からなくて、
私は話についていけない。
仕方なく、誰のことを言っているのか聞いてみた。


 「あの人、ていうのは、うちの学校の近くにある有名な私立大学に通ってる人なんだけど。」
 「それが、すっごく人に冷たいことで有名な人なんだよ。」
 「お金持ちの養子で、外見も頭も良いのにねー。性格がきついんだよ。」


こんなに目立つ存在がいた事を知らないなんて、花梨ぐらいだね。
友達に言われて、自分が改めてこの2週間何も考えずに生きてきた事を実感した。


 「それでね、こないだぶつかっちゃったら、すごい睨まれちゃってさ。」
 「こわーい!でも、ぶつかったのは、あんたのせいなの?」
 「違うわよ。あっちのせい。だけど、勇気を出して謝れって言ったら、
  『何故私がお前ごときに謝らねばならないのだ』て言ってきたのよ!」
 「何それ、むかつく!」


結局、その話はそれ以上される事はなく、
また一日が終わろうとした。




不思議なことが起こったのは、放課後の事だった。
愛読している雑誌を買いたいと友達が言ったので、
帰りに本屋に寄ることになった。


新しい日本史の本でも買おうかな。

京という世界にいたおかげで、すっかり日本史に興味をひかれるようになった。
だけど、自分がいた時代だけ。
だって、自分が分からなかった所が気になるだけだから。
例えば、そう・・・役職の名前の漢字とか。



本棚に書いてある案内板を見て、日本史の所に来て思わず足が動かなくなった。



私が京に残らないと決意した理由の人が本を物色している。
彰紋くんより年上には、あまり見えない幼さが残ってる顔。
髪の色も長さも、京で見た時と同じだ。
服が現代風になっているだけで、他は何も違わない。
逆に服の色合いまでも同じなのが、笑えてしまうほど。



あの人は、私が知っている『あの人』なの?



とりあえず、その人が視野に入るところに立って、
本を探すふりをしてみた。


 「和仁様。」


今まで本を物色していた彼が名前を呼んだ人を見る。

名前までも、一緒なんだ。
・・・そんな事よりも、今の低い優しそうな声も聞いた事がある気がする。


 「時朝か。もう少し待て。」


『時朝』?和仁さんの付き人の?
こっそり、『時朝』さんの姿を見てみる。


京であった時朝さんと同じ容姿。
そして、この人が来たことによって、ある事に気づいた。



あの2人。
京で初めて会った時と同じだ。



和仁さんは自分より下の人を見下し、
時朝さんはそれを黙って見届けるだけ。
その時の雰囲気と同じに感じた。

それ以上考えようとしたら、友達が集まってきた。


 「花梨、また日本史の本なんか見てるの?」
 「よく飽きないねぇ。私なんて、中学のとき授業眠っちゃってたし。」
 「・・・好きな人が関わってたから。」


気づいてくれるかな?
貴方のことだよ、和仁さん。
私のこと、覚えてる?
それとも貴方は和仁さんじゃないの?


 「行くぞ、時朝。ここは騒々しい。」


反応してくれない。
本を1冊とって、その場から離れる彼を目で追う。
彼は何も関係ないのかな。
ただの偶然で見かけも名前も同じなのかな。


 「げ。今のって、『宮様』じゃん。」
 「『宮様』?」
 「あの人の呼び名。偉そうな態度で出世しそうだけど、一番ではなさそうだからだって。」
 「あ、あれだからね、花梨。私がぶつかった人。惚れちゃダメよ!」


宮様、なんて呼ばれてるのも京と変わらない。
あっちでの世界の事が懐かしく思うな。
思わず笑みがこぼれる。


思い出に浸っていると、友達が怪訝そうに聞いてきた。


 「あんた、まさか惚れたんじゃないんでしょうね。」
 「・・・そうだとしたら?」
 「止めといた方が良いよ?」
 「そんな簡単に諦められないよ。」
 「傷つけられるだけだよ?」
 「それでも、後悔しないより良い。」


なかなか引こうとしない私に諦めたのか、友達はため息をついた。


 「しょうがないか。花梨も結構、頑固者だし。」
 「せめて悪い方向に行かないように応援してあげる!」
 「知ってる?あの人、いつも週末は学校の近くにある公園にいるのよ。」


良い友達を持った。
情報通な知り合いをもつと、こんなに簡単に会えるチャンスを作れる。

だけど、いきなり声をかけるのは危ないかな。
時朝さんを味方につけた方が良いかもしれない。






10月になって、すっかり木々の葉は地に舞い降りていく。
私は、時朝さんの信頼を思ったより早く得ることができた。

『和仁さんにもっと楽しく生きてもらいたい』て言っただけなんだけどな。
この世界でも、和仁さんは1人ぼっちに感じているみたい。


『それをどうにかしたい気持ちがあっても、自分は仕える身。
逆らうことはしたくないので、自分では駄目なのです。』


やっぱり、時朝さんも変わってない。
そこが彼の良い所であって、悪いところでもあるけど。


でも、彼らは京にいた彼らとは違うかもしれない。
私のことも、京のことも全く知らないから。
・・・寂しいな、忘れられてるわけでもないのに。


それでも、私は止めるわけにはいかない―もう1度私にチャンスが与えられたから。




時朝さんが味方についてくれた次は、和仁さんに会うこと。
今日も公園に行く予定だ、と時朝さんは教えてくれた。



久しぶりに会って、喋れる。


そう思うと、デートじゃないのに服装に気合が入る。

彼の勾玉の耳飾に似合う、薄い黄色の七部袖に淡い緑色のスカート。
お化粧なんてしたら、嫌がられそうだから唇にピンクのグロスを簡単に塗った。





 「こんにちは。私、高倉花梨。あなたは?」

最初は無難に挨拶。機嫌が良かったら、いいんだけど。
和仁さんは乱暴に読んでいた本を座っているベンチに置いて、私を睨んだ。


 「なんだ、お前は?お前ごときが私に話し掛けても良いと思っているのか?」


うん、予想通りの反応。
とびっきりの笑みを崩さないまま、私は隣に腰をかけた。


 「良いと思ってるよ。だって、あなた、1人でつまらなさそうだったから。」



京にいる『和仁』さんは救えなかった。
だったら、この世界の『和仁』さんを救いたい。



なんで、読書をする為だけに、わざわざ家から出ないといけないんだろう。
どうして、読書の合間に寂しそうな顔をするんだろう。



京では出来なかった事を今、後悔しない為にも助けたい。
その為なら、自分を犠牲にしても構わない。
少しでも早く、暗闇から救い出したい。




これは、もしかしたら龍神が与えてくれた試練なのかもしれない。
もう、私は怖くないよ。
今度はちゃんと気持ちを受け取れられる。
だから、和仁さんも私に心を開いてくれるように頑張ろう。


そして、絶対に伝える―たとえ彼が京の『和仁』さんではなくても。
あっちでは言えなくて、後悔した言葉。




愛してるよ、和仁さん。
多分、これからもずっと。








 ―あとがき―
長編なんて書いたの、何年ぶりでしょう。
果たして、ちゃんと書けているのかどうか読み返しても分からないとは。
めげません。がんばります。文章書く力を得るのだー!
そしてごめんなさい。ハッキリと和仁の服装書いてなくて。
それは次回、てことで。(ぉぃ)
<2005.04.28>

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